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3月の読書 「歳三からの伝言」など [本]

2011年3月11日は、長く日本人の歴史・記憶に残るだろう。そんな特別な月、TVのニュ-スを見ていなければいけないような強迫観念にも似た感覚に捕えられながらも、私は本のペ-ジをめくった。被災された方々は本を読む余裕などないだろうし、本そのものが手に入らないのではないかと思う。愛読家たちはどうされているのだろう。


「号泣する準備はできていた」、江國 香織
「行かずに死ねるか 世界9万5000km自転車一人旅」、石田ゆうすけ
「感動する!数学」、桜井進
「ゴールドラッシュ」、柳美里
「見知らぬ妻へ」、浅田次郎
「歳三からの伝言」、北原亜以子
「お金の流れが変わった! 新興国が動かす世界経済の新ルール」、大前研一


「号泣する準備はできていた」、江國 香織
またしても、おっさんが読むには抵抗のある本を読んだ。この本をカバ-を着けずに日本の電車の中で読む自信はない。韓国のアパ-トの部屋の中で読んだ。2時間で読んだ。タイトルの作品があの「直木賞」を取ったということに、何となく違和感を感じたが、短編集の本としては、面白かった。いろんな恋愛の形が描かれている。
ただ、理屈っぽい私には、タイトルがどうもしっくりこない。「号泣」を準備をして行うことができるのだろうか。「号泣」には感情の大きな揺さぶりが必要で、もしそれが予測され準備できるようなことなら、号泣にはならないのではないかと思う。一方、最近、漫才などで客が「爆笑」する準備をしているというので、そういうのもありなのかとも思う。広辞苑によれば、それは「大声をあげて泣くこと」とある。それに準備ができるのは、かつての韓国の葬式で活躍した「泣き屋」と言われる人くらいではないだろうか。

「行かずに死ねるか 世界9万5000km自転車一人旅」、石田ゆうすけ
約7年をかけて自転車で世界一周をした青年の旅行記だ。自転車の旅を「旅行記」というのは、ちょっと耳触りが違う様な気もする。前半、どこか軽薄な感じが漂うこの本、後半、だんだんと読む者を引きつけて離さなくなる。この本を読むと、観光地の遺跡や自然・文化を見るのは、旅のほんの一部でしかなく、旅のほとんどが人との出会いであるということがよくわかる。もちろん、その背景には、その土地にしかない独特の風土や生活習慣ががあるのは間違いない。私の最大の一周旅行と言えば(距離ではなく困難という点で)、幼馴染のR君と大学生の時に決行した、3泊4日の小豆島徒歩一周だ。著者の世界一周とは全く比べ物になら ないが、その時、私も何かを見つけた。この本を読んでいると、著者の成長がよくわかる。経験が、出会いが、そして一人旅という途方もない考える時間を与えてくれる生活が、彼を素敵な人にしていったような気がする。巻末の解説は椎名誠で、その最後の部分が私が思っていたこととまったく同じだったので、思わず膝を打った 。

>ぼくはこの「行かずに死ねるか」というタイトルは正直にいってあまり気に入らない

そうなのだ。初めの軽薄な部分はこのタイトルでもいいと思ったが、読み進むにつれ、この本の真価が表れれ、このタイルがあまりにも安易でつまらなく感じられた。もしこの本を読まれる方があったら、読後タイトルを考えてみるのも一興かと思う。

「感動する!数学」、桜井進
時々、数学に関するの本を買ってしまう。本屋でぶらぶらしている時、何故か目に留まるのだ。一見、とてもおもしろそうに見える。そして、途中まで楽しく読み、真中を過ぎたあたりで飽きてくるというパターンが多い。今回もそうだった。自然数、素数、完全数、友愛数、π、ピタゴラスの定理...理解できる興味深い話が続き、数学の世界に引き込まれていく。「博士の愛した数式」を思い出す。例題も頑張れば何とか解ける。しかし、途中で数学の歴史の話しになったり、「オイラ-の定理」が出たり、相対性理論に話しが及び、虚数など抽象的な話になったとたん、読めなくなってしまう。今回、πの話がおもしろかった。πはあらゆるものから独立し、すべてを超越した存在であり、そしてすべてを内包するという。これがどういう意味なのか興味のある人には、この本を読んでもらうしかない、さもなければここに論文を掲載しなければならない...

「ゴールドラッシュ」、柳美里
少年の精神のゆがみと犯罪を描いた話。読んでいて、気持ちが悪くなった。救いも何もない。独善と思いあがりとそして孤独。親の愛が届かない、または、存在しないということは、子どもにとってどれほどの影響をもたらすかということを考えさせられるが、それでも、中学生になっても、「してはいけないこと」が理解できないとうことには、大きな憤りを感じる。
最近、連続殺人を起こした3人のもと「少年」の死刑が確定したということが、ニュースになった。人権擁護(被害者の人権はなぜか無視される)、更生の可能性などが言われるだろうが、私は全面的に最高裁の判断を支持する。殴られれば痛いということは、誰に教えられなくてもわかるはずだ。もし、死刑がいけないとい うなら、過疎地で、無期限の強制労働をさせ、強制力を持った管理下の元、自給生活をさせるという方法もあるかも知れない。
でも、根本は、少年にそのような犯罪を起こさせないような価値観・道徳観を、社会全体が共有しそれで子どもたちを育むことが必要なのだろう。でも、どうやって?

「見知らぬ妻へ」、浅田次郎
この本は読んだことがある...いや、確信はないが、読んだような気がする。なのになぜか私の本棚の未読本コーナーにあった。読み出すと、あきらかに既読感がある、そしてそれはすぐに確信、記憶へと変わった。一回読んでいても、楽しく読み終えた。スト-リーは決してハッピーエンドではないが、いわゆる、「珠玉の短編集」というようなものだろうか。読後感は、すっきりした白ワインを飲んだ時のようだ。そして、人は哀しいなと思う。

「歳三からの伝言」、北原亜以子
この本は、ずいぶん長い間、本棚にあったが、読むのがもったいないような気がしてなかなか手が出なかった。新撰組副長土方歳三の後半生とでもいうお話である。大政奉還がなされ、鳥羽伏見の戦いで敗れたところから、話が始まる。将軍が大阪城から去り、近藤勇がだまし討ち的に散り、沖田総司がひっそりと去っていく中、連戦連敗の幕府軍の中での土方のけじめのつけ方を函館五稜郭まで追っていく。司馬遼太郎の「燃えよ剣」とはまた一味違った展開は、土方歳三をとても魅力的な人間として映し出す。新撰組や土方歳三の生き方が正義だとは思わないが、そこには「誠」があるような気がする。

「お金の流れが変わった! 新興国が動かす世界経済の新ルール」、大前研一
この著名な人の本を読んだことがなかった。基本的にビジネス書や経済関連の本に興味がないからだ。何故この本に手が伸びたかは、覚えていない。帰国の度に行く三宮の大きな本屋で買ったのは覚えている。この本を読んで、著者の本が売れ、その講演がいつも大盛況であるのか、よくわかった。文句なくわかりやすく、説得力がある。世界経済は日米から米中に移ったのは当然として、今や。アメリカ経済の衰退と、中国の競争力の減速から、行き場を失った巨大な資本は、新興国へ向かっている...それが平易な言葉で書かれている。またその中で、日本の生き残る道(大変困難な道)が示されている。3月11日よりも前に書かれた本だから、今、日本の置かれているポジ ションはなお厳しい。
現与党がとんでもない集団だというのは、政権発足後の軌跡を見れば明らかだが、著者はそれを気持ちのいいくらいスパッと一刀両断にしている。

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Bonheur

最近、TVを見なくなりました(と、雀翁さんに繰り返し書いてますね)。
政府の言うことも信用できないですし、騒ぐばかりで必要な情報も取れないので、「心配損・不安損」という感じがするので、TV見なくなりました。
でも読書、と言うわけでなく、旅行情報検索とか、現地の方に情報頂いたり・・・とかで、ネット見る時間が長くなりました。

旅好きとしては、石田ゆうすけさんの書物に興味を持ちました。探してみます。
ちなみに、ご存知かと思いますが、本のタイトルは、作者の一存で決まるわけでなく、「売るために」編集の方の意見がかなり入ります。
ので、タイトルと内容がミスマッチ、というのはかなりあります。
そこを突き詰めていくことにそんなに意味はないように・・・私は思います。
by Bonheur (2011-04-08 19:44) 

雀翁

Bonheurさん、

私もTVを見る時間が短くなりました。繰り返しが多すぎるのです(NHKしか見られないというのもその理由ですが)。

石田ゆうすけのこの本は、始めの30ペ-ジくらいを除いて面白いです。私は、旅行の本というより、人生の本いう感じで読みました

そうなんです、その「売るため」を考えた時に、「行かずに死ねるか」というタイトル・コピ-でいいのか?と思ってしまったのです。自分が買っておいて言うのもなんですが、もっといいタイトルをつければ、もっと売れるような気がしました。「もったいない」というのが感想です。編集者にもうひとひねり頑張ってもらいたかった...

by 雀翁 (2011-04-08 20:51) 

krause

浅田次郎の「見知らぬ妻へ」は、私も気に入っています。以前、漫画化されたこともあったので記憶に残っていました。

by krause (2011-04-09 11:06) 

collet

この中では一番最後の
「新興国が動かす世界経済の新ルール」に興味が湧きます。
今回の震災義援金にしても、
今まではアジアの後進国といわれていた国からも多く寄せられたように、
いろんな面で世界経済が変わって来てるようですね。
そんな中、最近は日本でも内職のオバちゃん達総動員で、
安くて丁寧な仕上げの商品を作りだしてるようですし、
日本にもプラスとなる変化が起こることを期待しています。
by collet (2011-04-09 13:20) 

雀翁

krauseさん、

ちょっと男の勝手な思い込み、都合のよさが見え隠れする本ですが、いいですね。漫画化されているのは知りませんでした。

by 雀翁 (2011-04-11 08:15) 

雀翁

colletさん、

著者は、アジア、中南米、アフリカの国々を挙げて日中、米中の次は?という問いかけをしていました。今後、日本がどのような国を目指すのか、こんなときだからこそ、しっかり考え、舵を取っていくことが必要だと思います。

あまり語られませんが、今回の震災で明らかになった、現実としての超高齢化社会(これが神戸の震災のときと大きく異なる点だと私は感じています)に直面する日本は、今までと同じ成功を夢見ていても実現性はないでしょう。

昨夜、都知事が、パチンコ屋と自販機に焦点をあて、無駄遣い社会を批判していました。そんな点も含め、みんながしっかりと考え行動すれば、この日本という国はちゃんとやっていけると私は思っています。きっと。

by 雀翁 (2011-04-11 08:28) 

ももんが

最近、読書に時間をさけていません。
読書時間取り戻さなくちゃ!!と思いました。

by ももんが (2011-04-16 15:03) 

雀翁

ももんがさん、

読書は私の生活の一部なので...
最近ちょっとTV離れをしだしましたから、時間もできてきました。

by 雀翁 (2011-04-18 18:12) 

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