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6月の読書、「輝ける闇」など [本]

6月の読書、「輝ける闇」など

暑くなってくると、週末のハイキング、朝のスタ-ト時間が早まる。その分、帰宅時間も早くなり、午後は昼寝や読書の時間となる。室内温度が上がらないようカーテンを閉め、ゆるい音楽を流しながら本の中に身を投げると、たちまち魂は浮遊を始める。


「風のかなたのひみつ島」、椎名誠
「背いて故郷」、志水辰夫
「震度0(ゼロ)」、横山秀夫
「名短篇、ここにあり」、北村薫、宮部みゆき編
「輝ける闇」、開高健
「今朝の春(みをつくし料理帳)」、高田郁
「日本はじっこ自滅旅」、鴨志田穣


「風のかなたのひみつ島」、椎名誠
久しぶりに椎名誠の本を読んだ。椎名誠と言えば「怪しい探検隊」、「怪しい探検隊」と言えば、孤島である。島の浜で男ばかりのキャンプ、怒涛の連日豪食豪飲の大宴会、口から火を吹く男、怪しい歌を歌う男...しかし、本著は違った。静かに島を訪ね、お行儀よく?民宿に泊まり、車で島を回る。ん?ちょっと違うやん? しかし、それはそれで心地よい。椎名誠の本領発揮、旅の随筆?は垂水健吾の美しい写真とともに、少し年を重ねた僕たちを遠い島に運んでくれる。ここに紹介されたすべて島に、行って、プハ~っとビールを飲みたくなる。浮き玉三角ベースをやりたくなる。表紙の見返りの著者の紹介を見ると、「1944年東京生まれ...」、僕の計算が正しければ、椎名誠は67歳。えっ?67歳? まさか?計算を繰 り返す。どうやら間違いない。こう見えても、僕は数字の専門家だ。二桁のたし算には自信があるし、引き算もかなりの確率で正解する。椎名誠がいつの間にか67歳...ちょっと感慨深い事実である。

某週刊誌連載(まだやってるのかな?)の「新宿赤マント」はつまらないが、彼の旅の話は楽しい。これからも、読み飛ばしてきたものを拾っていきたいと思う。驚いたのは、著者が「怪しい探検隊」ならぬ「ヤドカリ探検隊」なる話を小学校の国語の教科書に提供し、それが広く読まれているということである。それゆえ離島の学校に行くと、子供たちにも慕われるということだ。純真無垢な子供たちが、間違っても、「哀愁の街に霧が降るのだ」などのヨタ本を読まないよう学校や父兄は子供たちを導く責任がある。さもなくば、日本のビ-ル消費量が爆発的に増える危険性がある。

「背いて故郷」、志水辰夫
この作者の本も久しぶりだ。本格的ハード・ボイルド... ハード・ボイルドは読んでいて大変面白いが、大きな問題がある。それはある線を境に現実味がなくなるということだ。主人公は、どんなに物理的にやられても決して死なないし、考えられない回復力を見せる。これはフィクションだからと自分に言い聞かせるが、読んでいて気になって仕方ない。「そんな奴おらへんやろ」と言いたくなる。また主人公の周りには、今の日本には絶対存在しないような女の人が、しかも複数人いるのも腹が立つ...じゃなくて、現実味がない。でも、これらを引き算しても、読ませるハードボイルドは楽しい。
本書はロシアのスパイ行為をモチ-フにした筋書きだが、実際そのスパイ行為の内容にはほとんど触れられていない。何人もの人が殺されていくのに、その理由が鮮明ではないのはどうしたことか。人の内面に踏み込んだ話なので、スパイ行為はテ-マではないと言われればそれまでだが、読者として若干納得できない。やはり、殺人事件にはそれをサポ-トする確固たる動機が欲しい。

「震度0(ゼロ)」、横山秀夫
これまた大変しばらくぶりに横山秀夫の本を読んだ。本棚にはずっと並んでいたようだが(いつ買ったのか覚えていない)、手が出なかった。彼の得意分野、警察組織の中のいろんな葛藤を軸に描いている。同じ警察組織の中でも、キャリア(国家公務員エリート)と地方(じかたと呼ばれる地方公務員)の間には深くて暗い河がある。捜査の局面でそれらがぶつかり、摩擦音を鳴らす。ほんとうのことだろうか? 当然フィクションのサスペンスであるから、興味がわくように書いてあるのだろううが、まったくの作り事とは思えない...本編は、神戸の震災、警務課長の疾走、県警本部内のパワーバランスの争いなどをからめて話が進展する。横山秀夫なのでおもしろくないわけがない。そして最後に、「正義とは?」という大きな疑問符が投げかけられ、話は終わる。

警察が内部の犯罪や不始末を隠ぺいしようとすることは、実際の社会でもよくニュースになっている。結果として、隠すことによって警察全体への信頼を失わせることが多い。なぜ隠すのだろう。市民は警察官全員が正義の実践者だと思っているという妄想でもあるのだろうか。どんな組織にも反社会的な人がいるし、どんな人でもいつ何時反社会的行動をする可能性があるのだ。それらを公にし、公正に裁くことを市民は望んでいると思うのだが...組織の管理責任を問う声があるが、大きな組織の全員が、絶対間違ったことをしないなんてことはあり得ない話である。そんなあり得ないことを求める市民団体、専門家、メディアは「妄想」を続けているとしか思えない。そしてその追及を恐れ、間違いを隠す組織...いたちごっこである。
それは、ごたごた続きの政治組織にも言える。自分の組織の会計報告を透明性を持って公開できず、ましてや人に任せていて知らなかったなどという人に、政治家はできないと思う。またそういう人に、繰り返し投票する人は、申し訳ないが、いったい何を考えているのかと思ってしまう。東電にリストラを求め給与カットを指示する政治家(与党野党ともに)・高級官僚の何人の人が、過去の自分たちの国会での提案や採決に責任を取り、リストラや給与カットを申し出ているのだろう?バカらしくて彼らのコメントは聞く気のもなれない。


「名短篇、ここにあり」、北村薫、宮部みゆき編
どんな作家の本を買ってよいかわからい時、特に興味を引く本が見あたらない時など、ふと、このようなアンソロジーを買ってみる。するとそんな中から、それまで買ったことのない作家のお話に出会い、ちょっと買ってみようかなと思ったりする。
ただ、この短篇集、よく見ると、作品の著者たちは全員すでに他界されていた。いろんな文学賞の選考者である北村薫や宮部みゆきにすれば、現役ではなく、そういう過去の偉大な作家たちの中から選び出す方が抵抗なく作業ができたのだろう。でも、私の目的にはちょと合わないようだ。今から、読み始めるには、やはりこれからも作品を生み出してくれる作家が望ましい。
半村良の「宇宙人」、とてもおもしろかったし、井上靖の「考える人」は井上靖らしい作品で深かった。初めて読んだ黒井千次の「冷たい仕事」は理屈抜きに楽しいし、これも初めて読んだ円地文子の「鬼」は、きっと著者らしい作品なのだろうと思う。多岐川恭の「網」は、ミステリ-としては穴だらけで意味がわからなかった(投網で溺死させると言う発想は珍しいけど、実行性や証拠隠蔽がほとんど考えられていない...)。その他、松本清張、小松左京、城山三郎、吉村昭、吉行淳之介、山口瞳 、戸板康二など大御所が見白押しだった。

「輝ける闇」、開高健
今更ながら、この本を読んでよかったと思う。ベトナム戦争は、私たちの年代にとっては、大学紛争にように、「過ぎ去ってしまったこと」としての存在で、直視してこなかった。ものを見て自分で考える能力を持つ前に、それらは終息していた。だからと言って、「知りませんでした」で済ませていいものではない。戦争に正義などない。あるのは殺戮と悲惨と無慈悲である。それは、開高健にヴェトナム戦争の例をとって教えてもらわなくても、観念的に理解しているつもりだったが、改めて、それをもう少し理解した気がする。弾が飛び交うジャングルで命を懸けて敗走するラストシ-ンより、真っ暗なガレ-ジの中で、ト-ガ(ベトナム人娘)の身体に埋もれていく著者の心のうめき声が苦しい。
偶然か、この本を読んだ日、NHKで沖縄戦に参加した元アメリカ海兵隊員を父親を持つ、ピュ-リッツァ-賞を受賞したことのあるアメリカ人ライタ-?が、沖縄で何があったのかを知るため、当時の海兵隊員へのインタビュ-などを経て、沖縄を訪ねるルポルタ-ジュを放送していた。私は、私たちが何も知らないということを悲しいほど痛感した。沖縄戦で家族6人を殺された沖縄の老人が最後に、ライタ-の目を見つめ問う。「アメリカの正義とは何なのか?」と。この魂の問いは、一人アメリカに向けられたものではない。14歳の少年たちを徴兵して死地へ追いやった日本軍、遠く大陸やアジアの島々を占領した日本政府。それをあえて止めなかった人々..そして、私たち一人一人。私たちの正義とは何なのですか。

「今朝の春(みをつくし料理帳)」、高田郁
すでに、シリーズ4作目。安心して読める、そしてとても楽しいお話だ。今回登場する「寒鰆の昆布締め」なる料理。食べる者が言葉を失い、黙って手を合わせて帰っていく...それがどんな味を現すのかよくわからないが、これまでのお話の展開から、料理人の心のこもった逸品だということが伝わってくる。友を想い、決して結ばれることのない人を想う澪の包丁が、寒鰆という難しい素材(どのように難しいか私にはわからないが)に命を与える。「退職したら、まず料理学校へ」、それが私のささやかな夢である。でも、それは決して誰かのためになどという高尚な動機ではなく、自分のためにおいしい酒の肴を作りたいという単純なものではある。友人の一人が、「料理は化学である」と言った。温度、反応、変化...まさに言い得て妙である。

「日本はじっこ自滅旅」、鴨志田穣
西原理恵子の元旦那と言った方が通りがいいのだろうか。私は、著者のジャーナリストとしての働きを知らない。アルコール依存症というやっかいな病をかかえて、日本のいろんな「(地理的)はじっこ」を巡る旅が、淡々と描かれている。正直言って、読んでいるとどんどん辛くなってくる。著者には旅を楽しむという点が欠如し、ただ文章を、記事を書くために旅をしている。酒を飲む姿も、とても痛々しい。あまりお薦めできない本である(こんなことを書くと営業妨害になるかなあ)。自分の身体のことを思い始めたとき、残念ながら著者は川を渡ってしまった。
この本を読んでいるとき、NHKで日本の秘境(?)をバスで旅するという番組を見た。訪ねた先は、四国の祖谷(いや)である。天空の村と言われるように60軒ばかりの家が標高差400mほどのところに散在している。村人も「一番上の家までは行ったことがない」などという。、地理的には「はじっこ」ではないが。交通的にはあきらかに「はじっこ」である。「四国のお遍路完歩(ただし宗教的なことは何もしない)」は退職後の1つの目標だが、同じ四国の中にそのような場所があるのに感動し、そして同時に、日本中に第2第3の祖谷があるのだと思った。

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collet

早朝のハイキングは気持ちイイですね~(*^^)v
とにかく、早起きは三文の徳ですものね!

ところで、「今朝の春」はイマイチ単調でしたが、
その次の「小夜しぐれ」はお話が一段と進み面白かったです。
もう購入済みでしょうか?

それからどういう訳か?1度できたきりで、
その後サッパリ自分のコメント欄への書き込みができません。
せっかくコメントをいただいてるのにどうもすみません!
また後でお返事しますね!
それにしても、いったいどうなってるのか!?
時々あるんですよね・・・(;一_一)
by collet (2011-07-07 15:12) 

雀翁

colletさん、

年のせいか、起きるのが早くなって...ま、それでも土日は週日より遅いんですが。とにかく、朝歩くと言うのは気持ちいいです。旅行に行っても、朝食の前に宿の周りを歩いてみると、ほんとうにいろんなことが見えてきて楽しいです。観光地も朝7時の顔はちょっと違います。

SONETがSONYと関係があるということをほんの数週間前に知った私には、システムのことは何もわかりません...

by 雀翁 (2011-07-07 18:35) 

ももんが

さすが雀翁さん、しっかり読書されてますね。
私も最近、ようやく読書時間をしっかり確保するようになってきました。
今は高嶋哲夫さんの「TSUNAMI」を読んでます。
弟に借りたのですが、彼の本はとても面白いです。ただ、感情移入しやすい方にはおすすめできません。
ちなみに、弟と読書の嗜好がとても似ていることに最近気付きました。
by ももんが (2011-07-07 21:23) 

maki

冬季オリンピックの開催が平昌に決まり、沸きに沸いている韓国と思われます^^
盛り上がってますか~?

鴨志田さんは本も書かれていたんですか。
てっきり戦場カメラマンだと思っていたので、旅行に関する本を出しているとは思いませんでした。

面白いもので、ものの表現の仕方というのは、その人の生活ととても密着してると感じることが多々あります。
例えばデザイン関係の仕事をしている人だとブログにアップしている画像がとても広告的だったり。
私などは、自分の写真を見ていると、美しさは二の次で資料として使えるように撮ってるな~、、とか。

鴨志田さんも同様で旅は楽しむものではなくて、仕事でしかなかったのかもしれませんね。
そんな鴨志田さんの最期を西原さんもまた辛口漫画家として世間の期待に応えるようオモシロおかしく、そして切なく描いている。
ひとりの人間の人生の点は、全て連続してるんだな~なんて改めて考えてしまいました。
by maki (2011-07-07 21:32) 

雀翁

ももんがさん、

ありがとうございます。読書は週末の生活の一部となっています。
ずいぶん前のことですが、弟から「岳」という本を借りました。そして、それが長年にわたって椎名誠の本を読み出すきっかけになりました。ブル-ス・スプリングスティ-ンを教えてくれたのも弟でした。彼が私から何かを得たかどうか定かではありませんが、兄弟はありがたいものだと思います。
高嶋哲夫、今度一度読んで見ます。

by 雀翁 (2011-07-08 12:21) 

雀翁

makiさん、

TV(発表のニュ-ス)では盛り上がっているように見えたのですが、街中ではそんなに目立った動きは「まだ」ないようです。これで東京開催の目がなくなったと聞きましたが...

鴨志田穣は、確かにカメラマンだと思うのですが、その足跡跡を全く知らず、この本を読んだので、かなりネガティブな印象を受けてしまいました。一応旅の本だとは思うのですが、「そこへ行ってみたい」と思えないんです。

旅先の写真にコ-ヒ-カップを写してしまう私です...



by 雀翁 (2011-07-08 12:28) 

krause

どれも興味深い本ですね。特に「「名短篇、ここにあり」と「輝ける闇」に食指を動かされました。
by krause (2011-07-08 12:30) 

雀翁

krauseさん、

もし、お読みになってないなら、「輝ける闇」をお勧めします。ただ、自分が幸せに生きていることに、「これでいいのか?」と疑問を持ってしまうかも知れませんが。

by 雀翁 (2011-07-08 21:23) 

葵ママ

鴨志田氏の人生は随分破天荒で、過去には東南アジアでヘロイン中毒だったりしたことも。幸い、ヘロイン断ちには成功したようですが、アルコールはその代替え品だったのかもしれません。

西原さんと結婚した後もアルコール依存症は治らず、すさまじい家庭内暴力と入退院の繰り返しだったと聞いています。「私が稼いでると結局この人、酒を止められないんだ」と離婚に至りますが、その後ガンが見つかり、「過去にはいろいろあったけど、最期だけは家族で過ごしてあげなさい」と仲良しのドクター・高須に勧められ、同居。穏やかな日々を過ごし、死に水をとってあげたとか。

私も過去に彼の文章を読んだことがありますが、正直言ってエンターテイメント要素は0です。ただ、「俺の人生ってなんだったんだろうな・・・」という呻きのみを感じました。
by 葵ママ (2011-07-12 00:06) 

雀翁

葵ママさん、

みんなそれぞれ、いろんな人生を背負っています。平凡に見えてもその中に山あり谷あり、怒涛のように見えても、その中に一瞬の静寂があったりして。そんな一人一人が交錯して、また違う道が見えたりするのでしょう。その時々に判断し選択するのは、その一人一人なのですから、最後は自分の人生の付けを自分で払わなければならないように思います...というようなことを昔、知り合いに言ったら、それは「強者の理論だ」と批判されたことを思い出します。弱者はその判断も意思表示もできないというのです。その時は、「まったく不思議なことを言う人だ」と思ったのですが、折りにつれ、そのことを思い出し、それは「強者の理論なのか?」と自分に問うことがあります。アルコ-ル依存症は病気だと理解していますが、不治の病でもないと聞いています(はっきり知りません)。もしそうなら、いつかの時点で、しかも数回、依存症を治さないという判断を本人がしたのです...何を言いたいかわからなくなってしまいました。

by 雀翁 (2011-07-12 08:44) 

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