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雨に歩けば、チェロの音色と回る寿司 [音楽・舞台]

子供のころ、長靴を買ってもらったり、傘を買ってもらったりすると、雨が待ち遠しくて仕方なかった。樋(私は昔からこれを「とゆ」だと認識していたが、漢字の変換に出てこないのでチェックすると、なんと「とい」だという。そして「とゆ」は但馬地方の方言だと...知らなかった。明石でも普通に使ってたと思うけど。)からあふれる雨水の下に傘を持っていってぐるぐる回したり、水溜りに長靴で入って行って、長靴の喫水線(?)ぎりぎりまの所で遊んだり...結局、ずぶぬれ、びちょびちょ、ぐちゃぐちゃになって母に叱られたものだ。「三つ子の魂百まで」、「雀百まで踊り忘れず(雀って踊るのだろうか?)」、大きくなって、白い髭が生えるようになっても、することは大して変わらない。夏の長期トレッキング(日帰りトレッキングを続けてする程度)用に購入した、レイン・ウェアを試してみたくて仕方がない。ついでに、Gアテックスの帽子やGアテックスのトレッキング・シュ-ズも。折から、台風5号が北上し、朝鮮半島の西側を通過した。週末ずっと雨である。これぞ千載一遇のチャンス。早速、上から下まで防水ウェアに身を包み、近くのオリンピック公園に出かけた。雨の中傘を差さずに歩く。10分、20分、結構降っているのに、帽子、ウェア、靴の中はまったく濡れてこない。防水面での実力は完全に検証された。さすがに大人になったので、トレッキング・シュ-ズの喫水線を超えるような水溜りには入らない。「君子危うきには近寄らない」し、「虎子がいないので虎穴にも入らない」のだ。こんな日になぜか、公園でマラソン退会を実施している大手銀行があった。走る選手は、全員、水もしたたるいい男、いい女になっていた。「雨なんて気持ちで吹き飛ばせ!根性だ!」などという妄言がスピ-カ-から聞こえていた(実際は何を言っているのかよくわからなかったが、威勢のいい掛け声がかけられていた)。正直に言えば、彼らは、はっきり言って歪んだ悲痛な顔で走っていた。きっと何人かは風邪をひいたはずだ、可哀想に。あの銀行の月曜の窓口業務は支障なかったのだろうか、心配になる。雨の日のマラソン大会が原因で、窓口業務が滞り、それが噂を呼んで取り付け騒ぎがおき、そのままあえなく倒産...ちょっと考えすぎだった。そんな彼らを横目に、防水グッズに身を固めた私と妻は、「ドライ・ウォ-キング」を楽しんでいた。雨の日に傘を差さずに歩けるとは何と快適なことか。優越感にさえ浸れる。まるでフェラ-リに乗って高速を運転しているような気になる(ちょっと言い過ぎだ)。ただし、若干の問題があった。Cロンビア社のレイン・ウェアの謳い文句は、「外からの雨を通さず、内からの汗を逃がす。蒸れない通気を確保」だった。そんな魔法のような生地があるのだろうかと半信半疑だったが、魔法の効き目は、やはり100%ではない。考えれば、ウェアの外も湿度100%に近い(雨が降ってるんだから)。そんな所へ都合よく身体から出た内側の湿気だけが流れ出すはずがない。普通のナイロン・ガッパよりは通気性がよいという程度で、長時間歩いて発生する汗は、やはりウェア内にも多少こもるのである。ひょっとしたらGアテックスなら完全な通気が利くのだろうか。私が買ったのは防水通気機能はGアテックスと同じ、でもGアテックスより薄くて柔軟、Cロンビア社が開発した着心地最高の生地(以上、メ-カ-の説明)なのだ。さらに、もう一つ、些細な問題があった。それはレイン・ウェアの色である。オレンジなのである。消防士と同じ色なのである。雨の中を、傘も差さずにオレンジのレインウェアで歩く男...警察に通報される可能性はゼロとは言えない。

約2時間の防水検査を兼ねた雨中の散歩を終え家に帰る。途中で、地下鉄駅の改札の横の店で、ト-スト・サンドを買った。韓国ではこのト-スト・サンドがポピュラ-で、街角でよく見かける。お好み焼きを焼くような鉄板で、トースト用のパン、玉子(薄焼き)、ハムなどを焼く。それらを重ねた上(パンが一番下)に野菜をのせ、甘めの味の濃いドレッシングをかける。そして焼いたパンを一番上に載せて出来上がりだ。私的には、それをグリルサンド専用の金型に入れて表面をパリっと焼いてほしいところだが、韓国のホット・サンドはそれで終わり。ドレッシングは一度食べると3週間は食べたくない濃い味付けだった。また、5分ほどかけて家まで持って帰ったのがよくなかったのだろう、「パリッ」ではなく「グチャッ、ブニュッ」という食感だった。

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午後、おなじみの芸術の殿堂へチェロの4重奏を聴きに行く。韓国、中国、スイス、スウェ-デン、4人のチェリストたちの演奏会だ。2階席最前列から見ると、広いステ-ジにはピアノの椅子が二脚(ピアノはない)と譜面立てが2本おいてあるだけという、良く言えば極めて空間の豊かな、整理整頓の行き届いた、悪く言えば何もない、完全に手を抜いたような舞台設定だった。プログラムを見ると、まず4人が2人ずつに分かれて、デュオの演奏を聴かせてくれるようだ。拍手に包まれてステ-ジに登場した2人のチェリストたち。演奏が始まる。驚いた。チェロという楽器は好きだが、その力をまだまだ過小評価していたことを改めて後悔する。たった2台のチェロがあんなに豊かな音色と表現力を持つとは。圧倒された。あんなに広く見えたステ-ジが、2人のチェリストと彼らが紡ぎだす音色によって小さく見える。そして別のペアのデュオ。これまた、素晴らしい。あんない澄んだ音のメロディ-が、あんなに力のあるベースが、あの木の箱から出て、大きなコンサ-トホ-ルを完全に支配する。休憩を挟んで、ついに4人がいっしょに演奏を始める。家にもCDがあり、何回も聞いた「リベル・タンゴ」。ヨーヨ-・マのCDでは、アコ-デオンやピアノ、パーカッションなどを交えた演奏だったが、このステ-ジでは、チェロのみ。チェロだけなのに、なんと奥の深い演奏だろう。めったにないことだが、演奏を聴いていて鳥肌がたった。私は酉年生まれだし、ホ-ルのエアコンはきつめだった。演奏に対し、あんなに心からの拍手を贈ったことはまれである。通常儀礼的に、演奏に感謝し賞賛の拍手をする。でも、この日は、アンコ-ルを聴きたくて仕方なかった。そしてもう一度、「リベル・タンゴ」のさわり。なんと、幸福なことだろう...

バスで江南(カンナム)駅まで出る。妻が友人から聞き込んだ、おいしい「回るすし屋」に行くためだ。別に「回る」ところへ行きたいわけではない。最高のチェロの演奏を聴いた後なのだから、できれば地に足のついた、落ち着いた鮨屋の方がありがたい。しかし、ポイントは「回る」という点ではなく、「おいしい」という所にあった。店名は「Gってん寿司」...日本のチェ-ン店だということだ。「Gんこ」なら知ったいたが、「Gってん」の方はきいたことがなかった。入店すると、カウンタ-の中・外の従業員たちが声をそろえて迎えてくれる。まさに、日本の正しい「回るすし屋」、「居酒屋」の姿である。前に「回るすし」を食べたのは、確か明洞のロッテデパ-トの最上階。もう2年以上前のことだろうか。それに比べ、江南の「Gってんずし」は、日本的品質が非常に高かった。気分がいいし、第一おいしいのである。カウンタ-内には日本人職人?が3人もいて、全部日本語で注文できる。茶碗蒸しは今ひとつだったが、鮨はみんなおいしかった。だいたい、味がたいしてわからない私にはこれで十分である(そんなことを言うと「Gってん寿司」さんに失礼になるか)。

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なんとまあ、長い盛りだくさんの1日であったことか。そんな1日の最後を飾ったのは、夜、娘からの電話。彼女の勤める学校が夏休みの間に、どこかリゾ-トに連れて行けというものだった。「いっしょに行こう」ではなく、「連れて行って(費用はすべてこちら持ちの意味)」である。うかうかしていると、「なぜ働いて収入を得ている娘を、親がリゾ-トに招待しなければならないのか」という根幹の疑問を飛ばして、「いつ、どこに」の話になってしまう。恐ろしい娘である。その話は娘と妻の間で進展しているようだ。

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葵ママ

いつもながら、パワフルですねぇ。Gってんずしなら、うちの近所に最近進出してきましたよ。歩いてでも行ける距離なんですが、現在我が家唯一の運転手は名古屋におり、車も処分してしまったし、何より外に出るのが面倒でまだ行ってません。韓国にまで進出してたんですかぁ・・・

うちの息子ですら、何かというと親から金をむしろうとします。娘さんも、働いてるとはいえまだお若いですからそんなに高収入ではないでしょう。「せっかく休みなんだから一緒に出かけたいなぁ・・・」なんて言われると、そう悪い気もしないのでは?
by 葵ママ (2011-07-01 13:29) 

雀翁

葵ママさん、

多分日本の標準からいくと、「とてもおいしい」というコメントは出ないのかもしれませんが、期待値がぐんと低くなっている私には、「Gってんずし」は星3つでした(ちょっと期待値低すぎ)。

そうですね、娘におねだりをされることが、どこか「嬉しい」と思ってしまいます。残念ながらリゾ-ト計画に私は乗れませんが、妻と2人で行く相談をしているようです(くやしい)。

by 雀翁 (2011-07-01 18:24) 

COLE

内容の濃い一日を過ごされたんですね
最近は生演奏の音楽を聴くことがめっきり少なくなってしまいました
急に聞いてみたくなりました
by COLE (2011-07-02 21:42) 

maki

すばらしい。雀翁さんは本当に休日を満喫する方ですね^^

回る寿司でも江南ならやはり違いそうです(笑)
ネタも違えば盛り方もオサレそう。
そういえば私も二度ほど回っているのを食べたことがあります。
一回はSF、もう一度はミラノでしたが、回る寿司はもうお寿司屋さんというカテゴリーを越え、テーマパークと化していました。
江南もそんな感じかしら^m^

ふだん分かれて暮らしているお嬢さんに甘えられたらNOとはいえませんよね。
お母さんとしてみたら尚更でしょう。
雀翁さんもなんだかんだ言いながら、休日をより充実させるにはお嬢さんの参加が不可欠なのでは~(笑)
by maki (2011-07-02 22:55) 

ももんが

充実していて、何よりどんな状況も楽しまれているご様子で、本当に見習いたいと思いました。
お嬢さんとは今のうちにたくさんご旅行された方がいいですよ。
私は、若いうちにもっと両親と旅行しておけばよかったと、ちょっと後悔してますから。
by ももんが (2011-07-02 23:22) 

雀翁

COLEさん、

生の音楽、舞台は独特の良さがありますね。やはり、出演者と同じ空気の振動を感じているからでしょうか。

by 雀翁 (2011-07-03 16:19) 

雀翁

makiさん、

この日は特別いろんな事がありました。いつもは1日1行事です...
最近の日本の「回る」事情はよく知りませんが、海外で回っているのはけっこう、オリジナルも多いようです。特にマヨネーズ系のアレンジが多いような気がします。私はクラシカルな醤油系が好きです。

うちの家(ソウル)に来たら、エステもあるしリゾート気分が味わえるから、こっちのおいでと言うのですが、彼女のリゾートは年間平均気温が25度以上のところでないとダメみたいです。今、母娘で計画を練っています。私は、7月にたっぷり休むので、この計画には単なる「スポンサー」のポジションを与えられそうです。

by 雀翁 (2011-07-03 16:26) 

雀翁

ももんがさん、

雨の中、レイン・エアを着て歩いているのを充実と言うのかよくわかりません。関西で言う、「うれしがり」というパターンでしょうか。

息子や娘とは、時間と気が合えば、いっしょに旅行したいと思います。年末のは、息子に会いに行こうかと考えています。makiさんのコメントにも書きましたが、今回の計画は母娘リゾート計画として、おどろくべきスピードで実現に」向けて進んでいるようです。

by 雀翁 (2011-07-03 16:30) 

krause

ソウルも益々洗練されてきているのでしょうか。昔の江南は、高級な雰囲気がある振興開発エリアでしたが、最近はすっかり落ち着きを持ったようですね。今週から訪韓しますが、嶺南(と湖南)エリアのみになりそうで、北上しないと思いますので、こちらで満喫することにします。
by krause (2011-07-03 17:21) 

collet

夏休みの準備も着々と整ってるようですね。
イイですね~~楽しみですね~~♪

ところで、うちも「とゆ」って言いますが、
関西地方だけなんですか~~知りませんでした!
あっ、今度大工さんに聞いてみよう!

母娘のリゾート計画に興味津々です~
どちらへお出掛けかしら?
わたしも久しぶりに南の島に行きたいな~~(^o^)/
by collet (2011-07-04 12:16) 

雀翁

krauseさん、

いらっしゃい。こちらはここのところ、ずっと雨続きでした。南の方もけっこう降ったのではないかと思います。おっしゃるように江南は、だんだん落ち着いてきたようです(あまり行きませんが)。

by 雀翁 (2011-07-04 12:34) 

雀翁

colletさん、

そうですよね、あれは「とゆ」であって「とい」ではありません!

勝って知ったるタイへ行くようです。昨日、あちらの総選挙があり、「行ったら空港が閉鎖されたりして帰って来れなくなるよ」と、リゾ-ト計画に参加できない私は、牽制球を投げました。

by 雀翁 (2011-07-04 12:37) 

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