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結婚式の涙 [家族]

少し前の話である。

7月9日、姪(妻の姉の娘)のMちゃんの結婚式に出席した。日本の結婚式に出るのは、よく覚えていないが、25年ぶりくらいだと思う。姪は、近い親族では私たちの次の世代の結婚第1号である。

早朝まだ涼しい雨のソウル(キンポ空港)を発って2時間足らずで着いた関西空港は、想像をはるかに超える暑さだった。この猛暑の中、節電を強いられ、それを懸命に守っていこうとする日本人の姿に驚嘆する。飛行機の中、窓側の席へ入る人を通すために立ち上がって通路へ出ても一言もない日本人旅行客たちを見て、「日本人の礼儀正しさや謙虚さの後退」に若干の不安を持ちかけていた私だが、節電への姿勢には頭が下がる。結婚式の行われた姫路は、大阪と変わらぬ暑さだった。前日から帰国していた妻が、ス-ツ一式を式場まで運んでいてくれたので、私はポロシャツに破れたジ-パンという結婚式にはふさわしからぬ服装で式場に着いた。係りの人が、着替えはこちらで...と案内してくれた更衣室には、やはり普段着で来て、式場で礼服を借りた人など5~6人が着替えをしていた。シャツを着て礼服を着てネクタイを締め、胸にハンカチを差す。ク-ラ-が効いているというのに、すでにじんわり汗がにじみ始める。そんなところに「娘が式の時間に間に合わないかも」という連絡が入った。何をしているのだろう。

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新郎新婦の登場。晴れやかなカップルを見るのはとてもうれしいことだ...が、横では、まだ式も始まっていなにのに、義母が涙を流している。「Mちゃん、こんなにきれいになって...」。祝福の涙か、成長を喜ぶ涙か、新たに旅立つ孫(家は近いが)への惜別の涙なのだろうか。一同、チャペルに移動して人前結婚式。「人前」は「じんぜん」ではなく、「ひとまえ」と言うらしい。なぜチャペルでキリスト教に関係のない結婚式をするのか疑問だったが、よく見ると、室内には十字架やキリスト教関係のものは一切置かれていなかった。ステンド・グラスはモダンなデザインだが、宗教色はなかった。式場側も価値観の多様化に対応するため、「何にでも使えるチャペル風」の施設を作ったのだろう。望めば、ここで仏式や神道の結婚式もできる(セットアップさえすれば)と思うが、そう望む人がいるかどうかは疑わしい。新郎が一人入場して前方ステ-ジ(祭壇とは言わないのだろう)で待つ。結婚式で男性は、「男は常に女の引き立て役だ」ということえを激しく学習させられる。新婦が父親に手を引かれ、新郎の5倍くらいの時間をかけて入場。私はそんな役(新婦ではなく、新婦の手を引く父親の役)は絶対したくないと思い、そのことを式の後で娘に伝えた。娘は私の所有物ではなく、全くの自由意志で行動すべきである。それをあたかも私から誰かに引き渡すなどと言う行為は、非人道的であり国連憲章および日本国憲法に違反する...というのは建前で、本音では、単に娘の手を誰かに託すというような行為をする自信がない(娘の手を離さない、離せない、泣いてしまうなど)。ステ-ジで新郎新婦は、誓いの言葉を読み上げ、宣誓書にサインする。指輪を交換し、キスをする...神父/牧師のいないキリスト教結婚式である。

係りの人によって、参列者はチャペルの前で道の左右両側に並ばされる。その道の先には、幸福の「鐘」がある。フラワ-・シャワ-を浴びながら、新郎新婦が通っていく。そして、2人で、「幸福の鐘」を高らかに鳴らす。当然のように、和田アキコのあの歌が頭の中から聞こえてくる...「あの鐘を~ 鳴らすのはあな~た...」。いつの間にか、娘が横に立っていた。「式には間にあったんか?」、「うん」、うなずく娘の目は真っ赤で、涙を大量に流していた。「どうしたん? 蜂に刺されたん? お金でも落としたん?」、「だって、Mちゃん見てたら泣かずにいられへんやん。Mちゃん、すごすぎる...で、ハンカチ忘れたし...」。仕方がないので、買ったばかりのスヌ-ピ-のハンカチ...ではなく普通のハンカチを娘に貸してやった(それは後ほど絞れるほど濡れた状態で帰ってきた)。

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そのまま一同披露宴会場の前まで移動して全体の記念写真。チャペルを出てからここまで約20分、猛暑の太陽の下、厚手の礼服を着て、「冷たいビ-ルを飲みたい指数」がかなり上昇していた。披露宴の鉄の掟、乾杯の発声があるまで、何も口入れてはいけない。、「冷たいビ-ルを飲みたい指数」はうなぎ上りだったし、「主賓の挨拶を聞きたくない指数」は挨拶が始まってから急上昇した(幸い、仲人は立ててないらしく、その挨拶はなかった)。結婚式の主賓の挨拶、久しぶりに聞いたが...大変残念な出来だった(あくまでも私の主観)。結婚式のあいさつなのか、会社の紹介なのかよくわからなかった。反面教師として参考になった。でも、後で考えると、仲人の挨拶がなかったので、ひょっとして主賓は新郎の紹介も依託されたのだろうか。そして、何故か新郎の紹介が、新郎の会社の紹介に昇華されてしまったのだろうか...新婦側の主賓の挨拶は標準的なものだった。ようやく乾杯、ああ、シャンパンがおししい。そのあと自発的に冷えたビ-ルを飲み、人心地ついた。そして自発的に白ワインを頼んだ。友人の祝辞は、聞いていて楽しかったが、料理を食べるのに忙しくて、半分しか聞いていなかった。新婦がお色直しに退席するとき、一番大切な人と会場を出るという趣向があり、新婦のMちゃんは、まっすぐ私のテ-ブルにやってきた。「たくさんお年玉やいろんなお祝いを上げてきたから、やはり叔父さんが大切」...なわけはなく、同じテ-ブルの義母(Mちゃんからすれば母方の祖母)の手をとった。そして2人(Mちゃんと彼女の祖母)で、声を詰まらせて、大量の涙を流すのである。同じテ-ブルにいた妻も娘も泣いていた。どうしたことなんだろう、この涙は。ひょっとして私が知らされていないだけで、Mちゃんは明日カムチャッカにでも旅立つのだろうか。

お色直しの間に、新郎新婦の写真がスクリ-ンに映された。小さいときから成長を追った写真である。Mちゃんのそれが何枚か映され始めたとき、突然、私の目にも涙があふれた。小さいころのMちゃん、Mちゃんと遊んでいた当時の息子や娘の姿が走馬灯のように思い起こされる。みんなの涙の正体はこれだったのか。悲しい涙ではなく、かと言ってうれし涙でもない。Mちゃんという一人の人間の成長の過程を思い、その周りにいたたくさんの人、その周りで起こったたくさんのエピソ-ド、それに少しは携わった自分たち、それらがみんな結実して、本日このとき、ウェディング・ドレスを着たMちゃんの姿になっている。圧倒的な感動の涙だ。娘にハンカチを貸してしまったことを公開しながら、私はスクリ-ンに映ったMちゃんを見るために涙をぬぐった。「花嫁が両親に送る手紙」...まさか、そういうイベントが今でもあると思っていなかった。Mちゃんの読む手紙を聞きながら、私はMちゃんの両親を見つめていた。彼らの顔を見ていると、また涙が溢れた。


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先日、義父の3回忌があった。誰も泣かなかった。その2年前には葬式があった。みんな泣いた。でも、あのときの涙の量と、Mちゃんの結婚式で流れた涙の量、比較すべきものではないが、圧倒的に後者の量が多い。かくして、感動の結婚式が終わった。結婚式がこんなにも感動的なものだとは思わなかった。30年近く前の自分のそれよりも感動した気がする。もちろんそれは、時間によって記憶が希釈されたからではあるが。そして思ったのは、万が一、自分の子供たちが結婚するというようなことになった場合、その式に出るのは大変危険だということである。泣きすぎて脱水症状になるやも知れない。できるなら、それを避けるために、身内だけのハワイアン・ウェディング、往復航空券はファースト・クラスで子供持ちというような形態を望みたい。

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コメント 18

mee

今月末から約一ヶ月里帰り。父の一回忌のためにも。
また酒屋に行ってビールチェックするぞっ!
by mee (2011-09-07 12:57) 

雀翁

meeさん、

いい季節に帰るんですね。うらやましい。
日本のビ-ルは、種類やブランドがタ多数入り乱れて、全体としてレベルが高い以外、何がなにやらわかりません。この前、妻実家の冷蔵庫にたまたまあったSuper Dryを飲むと、意外とおいしいのに驚きました。マ-ケットシェアがトップになってから全然飲んでなかったので...(アンチ巨人的発想が身に染み付いてます)。

by 雀翁 (2011-09-07 18:12) 

krause

素晴らしい結婚式でしたね^^。姪御さんも、たくさんの涙を祝福として、素晴らしい旅立ちをされたことと思います。
by krause (2011-09-08 06:20) 

雀翁

krauseさん、

ありがとうございます。あんなに涙が出るとは思っていなかったので、みんなで驚きました。Mちゃんはとてもしっかりした娘で、すでに家庭内でのリ-ダ-シップを確立したようです...

by 雀翁 (2011-09-08 08:43) 

nomu

子どもたちの結婚は嬉しいだろうけど、自分の結婚式が思うように行かず、あまりいい思い出がないためか、式そのものには全く興味がありません。できれば地味婚とか、ごく内輪で・・・がいいのですが・・・。
その前に、早く相手を見つけて欲しいなぁ・・・

by nomu (2011-09-08 13:33) 

mikosuke

笑わされて、泣かされて・・・

同感、同感・・・(^O^)/
by mikosuke (2011-09-08 15:02) 

雀翁

nomuさん、

子供たちの式は、子供たちが思うようにやればいいと思います。そうです、問題は式より、お相手の確保ですね。うちの子供たちには、あまりその気配がありません...

by 雀翁 (2011-09-08 19:32) 

雀翁

mikosukeさん、

小さいときの話や写真を出してくるのは反則?だと思いました。あんなに、泣かされるなんて...

by 雀翁 (2011-09-08 19:34) 

まぐろ

素敵な結婚式ですね。皆さんがこんなに感動されるとは
ご本人も思い出に残る素晴らしいものだったと思います。
スイス記事も見せて頂きました。
スイスでも結婚式に参列されたんですね(^o^)
by まぐろ (2011-09-08 21:23) 

雀翁

まぐろさん、

感動していたのは、親族のテ-ブルだけだったのかも知れませんが...式のセッティング、費用、すべて新郎新婦で用意したと聞きました。

スイスの結婚式は、また全然違っていて、興味深いものでした。役所に届けに行って、そこで簡単な式をする人も多いと聞きましたが...

by 雀翁 (2011-09-09 08:48) 

collet

いやぁ~ん、雀翁さん・・・
この記事を読みながら思い出してしまいましたわ~~(T_T)

じつは、子供のいないわたしのことを「第二の母」だと言ってくれ、
働き出した頃から2人の子の親となった今でも、お正月にはお年玉をくれ、
母の日にはカーネーションを贈ってくれる可愛い姪がいます。
で、結婚式でも実の母である姉のよりは一回り小さかったけど・・・
わたしにも花束を手渡してくれ、驚いたのは勿論のこと!
嬉しいやら寂しいやらで大泣きした思い出があるのです~~(T_T)
今から思うと赤面状態ですが、
あの時は、わたしにつられ他の家族も涙ぐんでしまい、
我が家の忘れられない涙の結婚式となりました。

結婚式での涙・・・イイものですね~~(^'^)
by collet (2011-09-09 15:49) 

ももんが

ちょっとご無沙汰してしまいました。
いつもブログは拝見していたのですが、とにかくパワー不足で・・・。
niceくらいぽちっとすればよかったんですけど・・・(T_T)

雀翁さんらしいなあと思いました。素敵です(^.^)
私にも、雀翁さんのようにかわいがってくれた叔父叔母がたくさんいます。久々に連絡をとりたいなあと思いました。
よく見ている式場のような気がする・・・と思ったら、ちびもものおけいこの往復に通る道沿いにある式場でした^_^;
by ももんが (2011-09-11 21:39) 

葵ママ

読んでてまず「あ、サントリーの寿ビールだぁ」と妙な反応を(笑´∀`)
してしまいました。実は、式場の人に勧められたんですけど旦那が断ったんです。勤務先が一応三菱系列(ただし、創業者は岩崎さんちの方ではない)なので、キリンの「一番搾り」を出さないと上司に怒られると。

長崎では披露宴の鉄則が少し違います。元々は卓袱料理のお作法なんだそうですが、「では尾ひれ(お吸い物のこと)を」と司会者が言い、仲人の挨拶も主賓の挨拶も乾杯も後回しで全員がずずずっとお吸い物をすすります。そうでないと、宴が始められないそうで。多少なりともお腹にものをいれとくことで、長々と続くスピーチも耐えやすくなるとのことでした。

身内だけのハワイアン・ウェディングだと、結局娘さんのエスコートをやらされそうな気がするんですけど・・・
by 葵ママ (2011-09-12 09:25) 

雀翁

colletさん、

可愛い姪御さんがいらっしゃるんですね。お年玉までくれるんですか?素晴らしい。それぞれの家族にいろんな形のつながりがあることがよくわかります。時には、実の母親に話をするより、気やすい「おばちゃん」の方が、いろんなことを話したりできるのかも知れません。たぶん、姪御さんもcolletさんの存在が心強かったことでしょう。

by 雀翁 (2011-09-12 14:49) 

雀翁

ももんがさん、

無理をされず、マイペースでね。
式場は、姫路駅から西の方にたぶん歩いてでも行けるところだと思います。タクシーに乗ったらあっという間につきました。
私は特別姪を可愛がったわけではありませんが、世代の中で一番上だったので、何かにつけみんなの注目を浴びていました。娘は、姉のように慕っていたと思います。


by 雀翁 (2011-09-12 14:53) 

雀翁

葵ママさん、

ビール一つにしても、いろいろ縛りがあるのですね、式場でまさかインスタントコーヒーが出るわけではないので、うちは何でもOKです。ミネラルウォーターだけ気をつけなければいけませんが(間違ってもEビアンが出たりしないように)。

長崎卓袱料理の作法、面白いですね。ずずっと飲んでから、しばらく耐えるわけですね。しかし、汁の飲むと食欲が刺激され、余計に辛いような気もしますが。

確かに、ハワイアンウェディングは危険そうですね。ハワインアン高砂や~にでもしてもらいましょう。

by 雀翁 (2011-09-12 15:00) 

COLE

結婚式の感動の涙 素晴らしいでしょうね
そういう瞬間にいつ出会えるだろうか
by COLE (2011-09-18 22:42) 

雀翁

COLEさん、

姪の結婚式だから、涙を流しながらも冷静でいれましたが、いざ自分の子供たちの場合はどうなることやら。今のところ、その気配はまったくありませんが...

by 雀翁 (2011-09-23 12:06) 

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